田中瑠津様 ディジョン留学

2024年2月末から約1ヶ月間、ディジョンで過ごした。パリのリヨン駅からTGVで1時間30分ほど乗って東に向かうとその街がある。
デジョンは、道が広く、のんびりとしている。出会う人、街ゆく人はみな親切で優しかった。道端できょろきょろとしていれば、どこに行きたいのか、と助けてくれるし、雨上がりに滑って転んだ時にはわざわざ車を停めて、大丈夫か、と声をかけてくれた。大きな鞄とスーツケースを抱えて苦戦していると手を差し伸べてくれる人がいて、レストランに入り、いかにも初めてですという顔で現地の名物を食べていれば、優しく微笑んで喋りかけてくれる夫婦がいた。

ディジョン駅付近にある中心街はこじんまりとした印象で、スーパーやレストラン、薬局、郵便局、銀行、教会、美術館や映画館などが過不足なく集まっていて暮らしやすい。中心地から少し歩けば、プログラムの充実した素敵なミニシアターもあった。監督や批評家を呼んだ上映後トークなどを頻繁に行っている精力的な映画館で、イベントがある日は満席になるほど、街の映画好きが集う空間となっていた。中心街から少し離れれば、コロンビエール公園で小動物たちを眺めたり、夕暮れのキール湖でお散歩をしたりすることも出来る。街全体には常にトラムやバスが走っているので移動に不自由はなかった。
ディジョンの街のことや生活のことに関しては日仏文化協会の現地スタッフである佐藤さんが教えてくださり、郵便や風邪薬のことなど何でも質問をするとすぐに丁寧なお返事をくださったので、とても心強かった。おかげで、寮での暮らしにも比較的すぐに慣れることが出来たと思う。

ブルゴーニュ大学の語学学校では、聞く、読む、書く、話す、の4技能と文法を習得する授業が中心だった。私は、特に「聞く」と「話す」に苦労した。文法は既に習っているけれど、聞き取れないし言葉が出てこない。言葉を「学ぶ」ことと「使う」ことは、似ているようで全く違うことなのかもしれない、と思った。

私は、数ヶ月かけて同じメンバーで学んでいるクラスの中に、4週間だけ飛び入り参加する形で授業に出ていた。元気で統率力がありながら、生徒一人一人を気にかけてくれる優しい先生を中心に、クラスメイトもみんな気軽にたくさん話しかけてくれた。
クラスには、日本、韓国、中国、ロシア、ウクライナ、イラン、トルコ、ペルー、といった様々な国籍を持つ人たちがいた。年齢も出身もバラバラの生徒たちが集まり、皆それぞれ異なる理由でフランスに暮らし、フランス語を学ぶ理由もそれぞれにある。そのことがとても印象深く残った。フランスの大学を出てフランスで職を得る必要があるから、パートナーがフランス人だから、今働いているフランスの職場で語学の試験に合格する必要があるから。どちらかといえば日常生活のプラスアルファのような感覚でフランスに来ていたような自分は、そうした生活のために語学を学んでいる人々の存在に刺激を受けた。フランス語学習が生活と結びついたものであるクラスメイトたちがフランス語を「使う」ことに積極的であることにも納得が出来たし、そうした姿勢に鼓舞されもした。

ディジョンで生活する中で、語学力が向上したかはわからない。1ヶ月という期間は、何かを成し遂げたり大きく変化したりするには短すぎる時間だと思う。ただ、この短い時間の中で、フランス語を話すことに対するハードルは来る前よりも確実に低くなったような気がする。そして、以前よりもフランス語の響きが好きになったし、フランス語で話したい誰かに出会えたおかげで、もっとしっかりこの言語を習得しようという気持ちも強くなった。

異国の地に訪れ自分が異邦人になってみるという経験は、時に心地よく、時に心地悪く、これまでの自分が感じなかったことを感じ、これまで考えなかったこと考える機会になった。そして、自分のホームではない土地で、自分のものではない言葉を使って生活し、目的意識を持って努力している人達との出会いは、今後日本に戻ってからの自分の背中を押してくれる気がする。ディジョンで出会った人々の顔を時々思い出しながら、自分の目標や目的に向かって一歩ずつ努力できる人間であれたらと思う。