留学体験談

留学を生かし、音楽博士号を取得しました

島根 朋史 様 Tomofumi SHIMANE

東京藝術大学音楽学部、同大学院修士課程チェロ専攻修了。 2014年よりパリ7区エリック・サティ音楽院にてエマニュエル・バルサ (Emmanuel BALSSA) 先生のバロック・チェロクラスとクリスティーヌ・プリュボー (Christine PLUBEAU) 先生のヴィオラ・ダ・ガンバクラスに在籍。2017年帰国。 2019年、1stソロCD「Les Monologues」を発表し、新聞・雑誌等の推薦盤に選出される。2020年3月、東京藝術大学大学院にて、チェロでは歴代3人目となる音楽博士号を取得。

フランスの人々に出会えたことは、私の音楽家人生の宝です

 帰国してすぐにスタートした東京藝術大学大学院の博士後期課程。入学から一貫していた1つのテーマは、フランスの先生達、フランスで出会った多国籍な音楽を学ぶ仲間、講習会やオーケストラ企画で出会った先輩音楽家に揉まれた経験を論文と演奏で発表することでした。
ベートーヴェンが初めて『二重奏ソナタ』を書いて共演した相手は、フランス人チェリストのJ.-L.デュポール。彼の奏法書を紐解いてみると、チェロはルイ王家に持てはやされたヴィオラ・ダ・ガンバの繁栄とその歴史なくしては発展できなかったということを知りました。フランスで学び、様々な演奏経験を積んだバロックチェロとヴィオラ・ダ・ガンバは、この博士論文の執筆と演奏審査の場でも大いに役立つ結果となったのです。

 今回レコーディングしたのは、フランスにいる間によく演奏していた3~5分の小品などが大半でした。フランスは生活と密接にクラシック音楽を聴く人が日本よりも多く、パリで出会った音楽以外の一般の仕事をする友人は「ちょっと演奏聴かせて」と、よく言ってくれました。友人宅のサロン、綺麗な中庭、毎年6月にあるFête de la musiqueの日は行きつけのスーパーマーケットの向かいなどでも(笑)、留学中私は急に演奏するようなことが多かったのですが、そんな経験をCDに込めました。温かく聴き、そしてミスの有無とかではなく、純粋に“楽しむ音楽”として好意的に演奏を迎えてくれる、フランスの人々に出会えたことは、私の音楽家人生の宝です。

 留学中に、数か月に1度レッスンに通っていたチェロの大演奏家、故 アンナー・ビルスマ (Anner BYLSMA) 先生が、最後に書き残した奏法書を裏付けるべく、世界的にもまだ取り組んでいる人がほとんどいない、弓を下から持つヴィオラ・ダ・ガンバのスタイルをチェロに活かす、古い奏法の研究に取り組んでいます。今夏には、この珍しいスタイルでオーケストラ伴奏のもとソロ協奏曲を演奏予定です。
また今年は、パリで知り合ったフランス在住の名ピアニスト、靜代・LE NESTOUR氏の日本滞在に合わせてベートーヴェン・イヤーの企画、フランス留学をした友人達と共に、ルイ14世にまつわるバロック音楽の企画など、いずれも秋に控えています。

 パリで室内楽の授業でお世話になり、昨年は東京での公開レッスンの通訳をしたエリザベス・ジョワイエ (Elisabeth Joyé) 先生は、今年の初めに「また日本かパリでまた一緒に演奏したいね!」とご連絡くださり、それが実現するように…と願っています。
また、パリでお世話になったバロックチェロのバルサ先生は、博士論文執筆中に抱えた疑問をメールですぐに回答くださったり、ソロCDの推薦文も書いてくださったりしました。

 このような温かい先生に巡り逢い、帰国後もこうしてよい関係を続けていけているのは、最初は雲をつかむような思いだったフランス留学を、日仏文化協会さんが叶えてくれたからだ、と身に染みて思います。本当にありがとうございました。