留学体験談

先生のような独自の音色を持つ音楽家に

奥田ななみ 様 Nanami OKUDA

東京藝術大学附属音楽高等学校を経て同大学4年次に、京都フランス音楽アカデミーよりスカラシップを得て、エコール・ノルマル音楽院に入学。現在ジャン=マルク・ルイサダ(Jean-Marc LUISADA)先生のクラスに在籍。

海外で初めて一人暮らしを始めた昨年はそれまでの生活が一変し、見るもの聞くものすべてに驚きと感動の毎日でした。2年目の今年は落ち着いて生活ができ、日本にいた頃よりも一人で過ごす時間が増えた分、自分を深く見つめるようになりました。先生の意見をそのまま受け入れるだけではなく、自分の解釈や曲想を演奏に反映させるようにしています。目指す音楽の方向性や進むべき道がイメージできるようになったのは大きな変化だと思います。

昨年は、ブローニュの森にあるバガテル庭園で行われた「ショパン・フェスティヴァル・イン・パリ」で演奏する機会をいただきました。演奏後、観客でいっぱいの会場より「ブラボー」という声が聞こえた時は、日本と比べてダイレクトな反応に驚きましたが、とても嬉しく励みになりました。

また、夏には日本で初めてのリサイタルをしました。フランスで1年間学んだことを伝える良い機会となった公演後には、聴いてくださった大勢の方々より、音楽の捉え方や間の取り方が変わったとの感想をいただきました。これまでは、感情の赴くままに演奏する傾向がありましたが、音の響きを深く聴いて自分をコントロールすることを意識し、以前よりも気持ちに余裕を持って演奏できるようになったと感じています。

今年は音楽院より奨学金を得て、4月にリサイタル形式で行われる音楽院のディプロム試験に臨みます。45分のプログラムには、スカルラッティのソナタの他、リストの「ダンテを読んで」、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」を予定しています。また、シャンタル・ド・ビュシー(Chantal DE BUCHY)先生の室内楽のクラスでは、ヴァイオリン、チェロとの三重奏を学んでいて、6月に高等ディプロム試験を受けます。これまでハイドンとブラームスの作品を勉強し、今後はフォーレの作品にも取り組む予定です。同世代の音楽家とお互いの主張を尊重しつつ音楽を共有する室内楽の勉強では、ソロとは異なる楽しみがあり、新しいアプローチの仕方を学ぶ良い機会となっています。

ルイサダ先生は、過去の偉大なピアニストの演奏法を研究して、アドバイスをくださいます。決して思い付きではなく、楽曲を分析してみると、とても理に適っていることに驚きます。また演奏家としての経験から、会場の響きと楽器の特徴に合わせて、ペダルの使い方や間の取り方、音のバランスなど演奏法を変えることの大切さを教えてくださいます。

フランスで暮らすようになってから、自分にとって何が大事かということを考えるようになりました。好きなことに打ち込める環境にいる今が、一番幸せです。これからも、固定概念にとらわれず様々なことに挑戦して、先生のように独自の音楽観や音色を持つ音楽家になれるよう努力し、聴いている方々が喜んでくださるような演奏をしたいと思っています。