留学体験談

音楽面でも精神面でも成長したかなと思います

中安 義雄 様 Yoshio NAKAYASU

静岡県出身。浜松学芸高校芸術科音楽課程卒業。国立音楽大学音楽文化デザイン学科創作専修(現 作曲専修)在学時に第89回 国立音楽大学ソロ・室内楽定期演奏会に出演。大学卒業後に渡仏し、パリ・スコラカントルムにてエクリチュールを専攻し、ディプロムを審査員満場一致のトレビアンで取得。パリ国立高等音楽院にてエクリチュール科高等課程のディプロムを取得。 ACJ主催第6回ピアノ声楽伴奏コンクールにてヴェニス・ミュージック・アカデミー賞受賞。 これまでに作曲を鳥山妙子、北爪道夫、エクリチュールを市川景之、奥定美和、R.ギヤール、ピアノを落合洋美、飯尾孝枝、Y.アンリ、伴奏法をE.クーパーの各氏に師事。パリ国立高等音楽院では和声をC.レーン、対位法をJ.B.クルトワ、フーガと形式をT.エスケシュ、D.レジンスキ、管弦楽法をA.ジラールの各氏のクラスにて学ぶ。 現在はChez Amis音楽教室講師、2020年度より国立音楽大学及び同大学附属中学校・高等学校非常勤講師として後進の指導にあたる。

長かったのか短かったのか、6年間の留学生活を終えて…

2019年の7月末、6年間の留学生活を終えて完全帰国しました。長かったのか短かったのか、終わってしまえば正直よくわかりませんが、音楽面でも精神面でも成長したのではないかなと思います。

 エクリチュール科として過去の作曲家達の書法を学んだことは、作編曲面でも演奏面でも活きています。例えば、童謡「七つの子」を主題に様々な作曲家のスタイルで変奏を書いて発表した時、友人からクラシックの作品として高い評価をいただきました。演奏面では楽譜の読み方が変わり、強弱やテヌート、アクセントといったニュアンスがついている理由を和声や旋律の流れに結びつけて考えられるようになり、歌曲伴奏のコンクールでは理解の深い演奏が評価され、イタリア留学優待の副賞が付いた特別賞をいただきました。

 パリ国立高等音楽院での修士論文ではラヴェルの歌曲集「シェヘラザード」を取り上げ、ラヴェルが管弦楽伴奏の中で詩をどのように表現しているか、をテーマに研究しました。論文を書くにあたって、管弦楽法の授業でもお世話になったAnthony Girard氏に指導をお願いしました。彼自身ドビュッシーやラヴェルの作品のアナリーズの本を手掛けているので、論文の全体構成のアドバイスから文章の詳細の訂正をしてもらいつつ、分析にあたり参考にするべき本や比較するのに適確な作品を紹介していただきました。論文の内容を簡単に説明すると、風景描写、感情描写、異国の雰囲気をシェヘラザードの中では管弦楽法でどのように表現しているか自分の分析結果を述べ、「マ・メール・ロワ(バレエ音楽、管弦楽版)」と「子供と魔法(オペラ)」と比較して共通・類似する書法を取り上げ、更にその書法に基づいてラヴェルの歌曲「愛に死せる王女のためのパヴァーヌ」をオーケストレーションし楽譜と解説を載せる、といったものです。取り上げた3つの組曲のオーケストラ譜とのにらめっこは長く、自分の視点が独りよがりではないかと不安に思うことは多かったのですが、比較した時に新たに発見した喜びもあり、楽しくもありました。ご指導くださった先生の助力もあり、この論文はTrès Bienの評価をいただくことができました。

社会人としてはスタートを切ったばかり

 現在は個人でもピアノ伴奏や編曲の仕事を請け負いつつ、ここ近年で共演の多いフルーティストの大塲なつきさんが立ち上げたChez Amis音楽教室の講師として働いています。音楽教室の名前の通り、生徒さんが友達の家に行く感覚で楽しくレッスンを受けられるように指導をしています。また2020年度より母校の国立音楽大学で教鞭を執ることにもなりました。長く学生生活を送った結果ここにたどり着けましたが、それでも社会人としてはスタートを切ったばかりです。先生という立場に驕らず成長し続け、生徒の目線で楽しいレッスン・授業ができるよう努めます。