一日たりとも暇を持て余したことのない充実した日々
留学するきっかけとなった ”共感覚を巡る即興演奏”
渡仏して5年目となりました。長いようで、一日たりとも暇を持て余したことのない、毎日が充実した日々です。パリ国立高等音楽院の3年間の第一課程を経て、今年は第二課程の最終学年。ちょうど今は修士論文に取り組んでいるところです。私は”共感覚を巡る即興演奏”というテーマで研究をしています。”共感覚”という自分にとっては自然だと思っていた現象が、一般的ではないことを知り、以前から関心を抱いていました。幼い頃から、絵を見ていると自然に音楽が頭の中に流れてきたり、音楽を聴きながらそれと共に変化する色彩が見えてきたり。また、譜読みをしていて集中力が切れると、気がつけばその作品の”続き”を物語のように想像しながら即興で弾いていました。絵画や物語から得た印象、その時々に沸き起こる感情は、どのように音楽に変換できるのだろうか。感動した時、言葉が自然と口に出るように、音楽でも直感的に自由に表現するにはどうしたらいいのだろうか。考えれば考えるほど、奥が深いです。
実はこれらの疑問は、留学するきっかけとなったものでもありました。そのようなことを漠然と考えていた頃に、ふとしたきっかけでパリ国立高等音楽院にピアノ即興科があることを知り、迷わず受験してみようと思いました。
フランスならではの専攻” ピアノ即興科” とは…?
私が在籍しているピアノ即興科は、フランスならではという専攻の一つで、クリエイティブでいる事が常に求められます。音楽の内容が自由である反面、豊かな表現をするためには多彩な知識を持つことが欠かせません。ソロや室内楽等の実技系の勉強だけではなく、エクリチュールやアナリーゼといった音楽理論を身に付けることも必須です。様々な科目を並行して勉強することにより、全ての知識が相互的に理解を深めていると実感できたのは、こちらで学び始めてからでした。即興演奏は、作曲と演奏を同時に行うという感じ。入試では、課題曲の他、演奏直前に課題を渡され、ピアノを触らずに考える時間が与えられます。私が受験した際は、無調のテーマから二つのタイプの異なる即興演奏をする事と、楽譜1ページほどの単旋律に和声付をしてその場で曲に仕上げるというものでした。
自己主張が強く、自由に表現をするという国民性
大規模なストライキ、毎週のように起こるデモ等、フランス生活で不便な点は枚挙に暇がありませんが、それも自己主張が強く、自由に表現をするという国民性が表れていると思います。芸術に於いても、ジャンルを越えた新しい表現や実験的なパフォーマンスに寛容なのはそのせいでしょう。
新たな挑戦でもある企画として、日本で今年の9月に “ピアノで旅する「星の王子さま」”と題した、全て即興演奏のコンサートがあります。文学や絵画から得たインスピレーションを音楽で表現するということも含め、フランスで学んだ様々なことの一つの集大成としたいと思っています。長い伝統があるからこそ、新しい芸術も絶え間なく生み出されて、磨かれていく。そのようなこの国に、今日も魅了されています。