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第27期奨学生の留学体験レポート

 

四條桐貴子様 パリ留学を終えて

 

絵日記。PDFで全6ページご覧いただけます

ルーブル美術館 模写

ショミエールでのクロッキー。PDFで全6枚ご覧いただけます。

オルセー美術館前

ノートルダム大聖堂

ポンピドゥーセンター

モンサンミッシェル 夜景
ルーヴル美術館にて
住んでいた街
家の近くのマルシェ
教会
現地のジャズバー
街並み

私がパリに単身留学に行った目的は主に二つ。
まず一つ目は世界随一の芸術の国であるフランスに実際に住み現地の人と同じように生活をすることで芸術がその街に根付く仕組み、その中で生きる人々の文化や人間性に触れることで私自身がこれからの将来芸術を志す者として生きて行くヒントを見つけること。二つ目は大学で勉強はしたものの中途半端になってしまっていたフランス語を実際に現地の人から学び「慣れる」という手段を用いて習得したい、ということ。以上の二点をなるべく頭の中に置きながら生活をした。


パリは思ったよりも小さい街で、後から聞くと大体山手線を一周するくらいの外周なのだそうだ。徒歩でも2時間あれば縦断できてしまう。そしてパリは公共交通手段が非常に発達した街だ。だいたい徒歩10分以内の間隔で地下鉄の駅があるし、頭上にはRERというちょっとした遠出に便利な高速鉄道が通り地上にはバスの停留所が「冗談だろ」と思うほど短い間隔で張り巡らされている。そのため、私の住んでいた15区(簡単にいうとエッフェル塔のお膝元)からは有名な観光地にはだいたい30分、遠くても1時間以内で行くことができた。また、パリに対して近年の日本人が抱くイメージは「テロ、怖い」「デモ、怖い」「スリ、怖い」というものが多いように思うが(少なくとも私の両親や友人からはそのようなことをよく言われた。)現地に実際に住むと、もちろん日本と同じような感覚ではいられないにしても最低限のことを注意していればそこまで治安の悪い街ではないと思った。


そして、パリに多いものとしてこれはやはりイメージ通りだったが美術館、カフェ、パン屋は少し歩くとすぐにどこにでもあり、これがやはりパリをパリたらしめる所以ではないかと思う。なぜかというと、パリのカフェには平日の昼だろうが土曜の夜だろうがだいたいいつも同じくらい人がいる。パリのカフェでコーヒーを飲んでいると自分が今「平日の真っ昼間にカフェでコーヒーを飲んでいる」ということに気づけないし、要は日曜の昼だろうが平日の昼だろうが人々に同じくらいの余裕がある。なんなら平日の昼からパリ人はワインを飲むし、ワインを飲んだ状態で仕事をしていたりする。「酔っちゃったわ〜」とか言っている。でも、それが許されるくらい人々の心にゆとりがある。美術という言わば娯楽である文化が発展できたのはその心にできたゆとりの間で美術を「楽しむ」ということができたからなのではないか、と思う。


また、日本と違って美術館は大抵撮影が可能で敷地が大きいし天井も高い。そのためか、日本の美術館に行くよりも数倍入りやすい雰囲気があるように思った。さらに大きな美術館(ルーヴル美術館やオルセー美術館など)には大抵無料開館日や割引制度が整っているので日本にいるよりも料金的にも比較的リーズナブルだ。そのため平日の夜でも美術館には老若男女(それこそ赤ちゃんからおじいさんおばあさんまで)問わずどの年代も満遍なく人がいるように思えた。


日本の美術館はというとやはり客の年齢層は高くあまり若い人がふらっと美術館に遊びに行く、という文化はないかもしれないなと思う。逆にいうとパリは美術鑑賞に対するハードルが低い。


私は毎日一箇所ずつ違う美術館に通うということをしていたが、ほとんど毎日小学生や中学生、高校生がクラス単位で授業として美術館に訪れているのを見かけた。日本でいうところの遠足や課外学習(感覚として日本は海外よりもそういった機会は少ないように感じるが)美術館にフィールドワークをしに行くのだと思う。日本において社会科の授業の一環として校外学習がある学校は多いが美術の授業で美術館に行く学校はまず少ない。さらに驚いたのは、ごく一般の美術教員に見える(生徒との接し方から推測)人が生徒に対して美術作品の鑑賞方法や目の前の作品に対する知識を生徒に詳しく説明することができるということである。さらに言うとその説明に対して生徒が適切な質問を投げかけることができるのだ。その2点だけでも十分にパリと日本の美術教育の進度の違いを感じられる。また、日本にいると美術の知識を語り合いたくてもその文化がないしともすれば鼻で笑われてしまう事もあるが、フランスや欧米などでは逆に芸術に関する知識のない人は恥ずかしい人だとフランス人に言われたことがある。そういえば海外の人と話をするととても文学的で品の良い会話ができる気がするのはそういうところから来るのかもしれない、とも思った。


フランスにいる間の私の生活は主に3つの軸から成っていて、一つ目は前述通りの美術館巡り、二つ目はフランス語学校での勉強、三つ目はクロッキーアトリエでの制作だった。美術館については前述の通りなので次はフランス語学校について書く。


私の通っていたLutece Lungue(リュテス・ラング)はパリ7区にある。オルセー美術館のすぐ近くでメトロの最寄駅もオルセー美術館と同じだった。少人数制の会話塾で、基本一番多くても4人程度のクラスに先生が一人程度で生徒と先生の距離は非常に近い。当初私クラスにはアメリカから来た女性一人と日本人から来た二人のクラスメイトがいたが、最初の1週間でアメリカ人の女性は上級者向けのクラスに移り、2週間目が終わる頃には日本人二人も帰国などの理由で学校を辞め、3週間目から私は必然的にマンツーマンのクラスで授業を受けることになった。私の担当をしてくれた先生はとてもおしゃべり好きで様々な話をフランス語で(私がわからない時は英語で解説をしながら)してくれた。文法の勉強ももちろんしたが、一番身についたのは会話をする力だと思う。ひたすらに世間話をフランス語と英語でする授業はとても楽しく刺激的で毎回の授業は一瞬のように感じられた。先生は毎回「言語は使わないと意味ないのよ、喋らないと意味がないの」とよく言っていたがまさにその通りだと思う。そのおかげでフランス語だけでなく英語を話す能力も留学をする前と後だと格段に上がった。


次にクロッキーアトリエでの制作について。私の通っていたアトリエはAtelier de la grand chaumier(グランド・ショミエール芸術学校)というところで、チケット制のヌードクロッキー教室を受講していた。老若男女様々な人たちが昼夜問わず熱心にクロッキー制作をする環境は非常に刺激的だったし、見たものの捉え方、出力方法が今まで日本で学んで来た絵画と明らかに違い毎度自分が描くクロッキーの手法も変わって行った。また、毎回変わるクラスメイトたちの中には「これはなにで描いているの?」や「どこから来たの?」などと気さくに話しかけてくれたり、絵を褒めてくれる人もいて自分の絵についてまたひとつ違う視点を持つことができたように思う。また、モデルもやはり日本とはポージングのジャンルや表情の作り方が少し違うと感じてまたそれ面白かった。
以上の他にも、旅行とも違い現地での一人暮らし生活はそれだけでとても十分貴重な体験になったと思う。スーパーの形式や買い物の方法、もちろん日本では売っていない食材も多数見かけたし、マルシェに行くと破格の掘り出し物などもたくさんあった。街で出会う人々の価値観も明らかに日本とは異なっていたし、自分にない価値観のチャンネルをひとつ増やすことができたと思う。


今回の留学で想像以上にパリのことが好きになったし、街でよく行くパン屋のご夫婦には「君にはパリが似合っているから早く帰ってきてね」と言われたのでまた必ずパリに住みたいと。それまでにさらに自分の日本人芸術家としても成長したいと思う。